身体の仕組みと機能(筋・腱・筋膜、神経、自律神経など) 首・肩の痛み・(四十肩、寝違え、神経痛)

前に倒すと首が痛い…その原因、回旋スポーツと胸背神経かも?

ゴルフのスイング、テニスのサーブ、野球のバッティング…に共通するのは回旋スポーツであるということです。そして、もしそれらをやっていて、最近、首を前に倒すとズキッとした痛みが走ったり、以前より首の動きが悪くなったと感じたりしていませんか?実は、その不調の裏には、身体全体の回旋機能の低下や、それに伴う神経の圧迫・牽引、そして長年の姿勢の癖が隠れている可能性があります。特に回旋系のスポーツでは、体幹や股関節の動きが重要ですが、これらの機能が低下すると、代償的に肩甲骨周囲への負担がかかり、痛みや不調を引き起こすのです。

この記事では、回旋系スポーツをするが、身体の硬さを放置している、姿勢の悪さを自覚している、なんだか最近肩首に張りや痛みを感じる方の首の痛みに焦点を当て、その意外な根本原因となりうる神経や姿勢との深いつながりを徹底解説します。さらに、当院が考える根本改善へのアプローチと、ご自身でできる対策のヒントもお伝えします。

首の痛みの要因?「胸背神経」についてとその機能についてまず確認してみましょう。

多くの方が首の痛みを感じると、首そのものに原因があると考えがちです。しかし、特に回旋系のスポーツを行う方の場合、首から離れた場所にある神経や筋肉の問題が、首の痛みを引き起こしているケースが少なくありません。

今回の注目すべき神経:「胸背神経(きょうはいしんけい)」とは?

今回のテーマで特に注目したいのが「胸背神経」です。この神経は、主に頚椎(首の骨)のC6、C7、C8あたりから始まり、腕神経叢(わんしんけいそう)と呼ばれる腕や手へ向かう神経の束の一部を構成した後、背中にある大きな筋肉「広背筋(こうはいきん)」へとつながっています。

広背筋の主な働き:

  • 腕を後ろに引く、内側にひねる、下に下げる動作
  • 体幹の安定や力強い回旋運動のサポート

つまり、胸背神経は、ゴルフのスイングやテニスのストロークといった、肩甲骨を動かし、腕を使い、体幹を回旋させる動作において非常に重要な役割を担っているのです。

腕神経叢の後神経束の上下肩甲下神経と今日胸背神経のイラスト
図1:腕神経叢と胸背神経、広背筋の関連

ついでに上下肩甲下神経とは? – 肩の安定と力強い内旋を支える

後神経束から分岐する上下肩甲下神経は、その名の通り肩甲骨の奥深く(前側)に位置する筋肉へと向かいます。

  • 走行と支配筋:
    • 上肩甲下神経は、主に**肩甲下筋(けんこうかきん)**の上部を支配します。
    • 下肩甲下神経は、肩甲下筋の下部と**大円筋(だいえんきん)**を支配します。
  • 機能不全の影響:
    • これらの神経が何らかの原因で正常に機能しなくなると、肩甲下筋や大円筋の筋力低下や過緊張が起こり、肩を内側に捻る力の低下、肩関節の不安定感、腕を上げる際のひっかかり感や痛み、可動域制限などが生じる可能性があります。特に投球やスイングの際に、肩の奥に力が入らない、あるいは痛みを感じる、といった症状として現れることがあります。

痛みのメカニズム:なぜ胸背神経や広背筋が首の痛みに?

では、なぜこの胸背神経や広背筋の問題が、首の痛みに繋がるのでしょうか?そのメカニズムのひとつについて説明します。

  1. 姿勢の悪化と身体の歪み
    •  猫背や巻き肩、骨盤の歪みなどにより姿勢が悪くなると、身体全体のバランスが崩れ、特に体幹の回旋がスムーズに行えなくなります。
  2. 肩甲骨周りの動きの悪化
    •  身体が捻りにくい状態で無理に回旋運動を繰り返すと、肩甲骨やその周辺の筋肉(広背筋も含む)の動きが硬くなり、柔軟性が失われていきます。
  3. 胸背神経へのストレス
    • 姿勢や動きが状態で何度も繰り返し動作することで神経が摩耗しそれらの影響で関連する筋肉が緊張し機能低下を引き起こします。
  4. 広背筋の機能低下と代償運動
    •  胸背神経に問題が生じると、それが支配する広背筋の働きが悪くなります。すると、体幹の安定や腕の動きを他の筋肉で補おうとする「代償運動」が起こり、特に肩甲骨周囲に過剰な負担がかかります。
  5. 首への負担集中と痛み発生
    • 本来広背筋などが担うべきだった肩の運動が思うように機能していない状態に気づかずに、更に運動を続けることで、状態は悪化し、原因が原因を作り、原因不明の首の痛みへと繋がります。更に神経の炎症などを引き起こし、結果として首の痛み(特にC6~C8領域に関連する痛みや腕への放散痛)として現れるのです。
  6. 症状を確認
    • 痛み方も重要な指標になります。このケースでは特にC6~8周囲にむくみのようなプクッっとした腫れがあります。痛みも運動中よりも首を前に倒した動作で特に症状を感じます。

知っておきたいポイント

このように、痛む場所(首)と、痛みの本当の原因(胸背神経や広背筋、さらにはそれらを引き起こす姿勢や身体の歪み)が離れていることは珍しくありません。だからこそ、首だけを施術しても改善が見られない場合、より広い視野で根本原因を探る必要があるのです。

首の痛みの根本原因を探るには:「姿勢」を分析し「動きの癖」を知ることが大切

では、なぜ胸背神経や広背筋に問題が生じ、結果として首の痛みに繋がってしまうのでしょうか?その根本には、多くの場合、「姿勢の崩れ」「動きが悪いことに気付かずに使い続けることの問題」が潜んでいます。

姿勢の崩れが引き起こす「回旋制限」

例えば、以下のような姿勢の方は注意が必要です。

  • ぽっこりお腹・反り腰: 腹筋の弱化や骨盤の前傾により、体幹の安定性が低下し、スムーズな回旋運動が妨げられます。
  • 股関節の伸展制限(股関節が伸びない)腸腰筋短縮: 体感の回旋が不安定となり可動域の低下の要因に繋がります。
  • 身体の捻じれ(例:上半身が常に左に捻じれているなど): 無意識の重心の癖や左右の歪みにより、身体が捻じれている状態で、回旋運動を行うことで神経に過度なストレスがかかり続けます。

このような姿勢の崩れがあると、例えば「身体が右に回旋しにくい」といった状態が生じます。しかし、スポーツでは左右均等に、あるいは特定の方向に力強く回旋する必要があります。

「回旋制限」がある状態での無理な運動が生む「神経へのストレス」

身体がスムーズに回旋できない状態で、無理にゴルフのスイングやテニスのストロークを繰り返すとどうなるでしょうか?

  • 代償運動の発生: 本来使うべき体幹や股関節がうまく機能しないため、肩や腕、そして首を過剰に使って回旋しようとします。
  • 肩甲骨と肋骨間の摩擦・圧迫: 特に肩甲骨周りの動きが悪くなると、肩甲骨と肋骨の間で筋肉や神経(胸背神経も含む)が挟まれたり、擦れたりしやすくなります。
  • 胸背神経へのダメージ: このような持続的な物理的ストレスにより、胸背神経に微細な損傷や炎症が起こり、運動機能が低下(運動神経線維の場合)します。

神経の問題が筋肉へ、そして首の痛みへ:「原因が原因を作る」悪循環

「神経に問題が起こることで筋肉に問題が起こる」というケースは非常に多いです。この場合、胸背神経の機能が低下すると、それが支配する広背筋も正常に働けなくなります。

  • 広背筋の機能不全: 広背筋が弱まったり、過緊張を起こしたりします。結果、肩関節の可動域低下を招くことになります。
  • 首へのさらなる負担: 広背筋が担っていた体幹の安定や腕の動きを、首周りの筋肉がさらに代償しようとし、首の痛みやこり、むくみといった症状が悪化・慢性化していくのです。

知っておきたいポイント

このように、「姿勢の崩れ」→「動きの制限」→「神経へのストレス」→「筋肉の機能不全」→「首への負担増大と痛み」という負の連鎖、まさに「原因が原因を作る」悪循環に陥ってしまうのです。この場合、痛む首だけを施術しても、大元の原因である姿勢や動き、神経の問題が解決されなければ、症状は繰り返し現れてしまいます。

首の痛みの謎を解く!「痛い場所 ≠ 本当の原因」の典型例

「いろいろ試したけれど、なかなか首の痛みが良くならない…」そう感じている方は少なくないでしょう。マッサージを受けたり、湿布を貼ったりしても、その場では少し楽になるけれど、またすぐに痛みがぶり返してしまう。それはなぜでしょうか?

ケーススタディ:回旋系スポーツ愛好家のAさん(仮)の場合

Aさんは、週末のゴルフが趣味ですが、ここ数ヶ月、運動中は痛みがないものの首を前に倒すと、不快な痛みを感じる症状に悩まされていました。整形外科では「頚椎症の疑い」と診断され、痛み止めの薬と湿布を処方されましたが、症状は一進一退。ゴルフのパフォーマンスも低下し、楽しめなくなっていました。

当院での分析:「痛い場所 ≠ 本当の原因」

Aさんの状態を当院独自の「10個の姿勢分析」などで詳しく調べてみると、以下のような点が明らかになりました。

  1. 著しい体幹の右回旋制限: Aさんですが、身体を左にねじることが多いためか、身体を右に捻る動きが非常に硬くなっていました。
  2. 右腸腰筋の過緊張と短縮: 右の股関節前面にある腸腰筋が硬く縮こまり、体幹の動きを制限していました。これにより、骨盤が前傾し、反り腰の傾向も見られました。
  3. 右肩甲骨の外転・下方回旋: 右の肩甲骨が外側に流れ、下方向に回転するような位置異常があり、広背筋や僧帽筋下部の機能低下が疑われました。
  4. 右肩甲骨周囲の多数の圧痛: 右の肩甲骨の内側縁や脇の下あたり(胸背神経の通り道)に強い圧痛や顕著なむくみがありました。

これらの分析結果から、Aさんの首の痛みの「本当の原因」は、首そのものではなく、「右腸腰筋の機能不全に起因する体幹の回旋制限と、それに伴う右胸背神経へのストレス、そして広背筋の機能低下」にあると推測されました。

原因と結果の連鎖:なぜ腸腰筋の問題が首の痛みに?

  • 右腸腰筋が硬くなることで骨盤の動きが悪くなり、体幹をスムーズに右へ回旋させることが困難になります。ゴルフのスイングでは、フォロースルーで身体を左に大きく回旋させる必要がありますが、体幹が回らないため、無意識のうちに肩甲骨や肋骨部で負担がかかってしまいます。
  • 特に右の肩甲骨周りの筋肉(広背筋など)に無理な負荷がかかり続け、胸背神経が圧迫されたり引き伸ばされたりします。
  • 胸背神経の機能が低下すると、広背筋がうまく働かず、さらに神経に負担がかかることで頸部に痛みを伴ってしまいます。
  • この結果、神経に炎症やストレスが生じ、Aさんのような「首を前に倒すと痛い」「右側の首の痛み」といった症状が現れていたのです。

知っておきたいポイント

このケースのように、痛む場所(結果=首)と、本当に問題を抱えている場所(原因=腸腰筋、胸背神経、広背筋など)は必ずしも一致しません。これが「痛い場所 ≠ 悪い場所」の原則です。

Aさんの場合、首に直接アプローチするだけでは、根本的な原因である体幹の回旋制限や神経の問題が解決されないため、症状の改善は見込めませんでした。むしろ、痛む首を施術することで、炎症を悪化させる可能性すらあったのです。

多くの医療機関では、残念ながら症状が出ている部位への対症療法が中心となりがちです。しかし、本当の原因を見つけ出し、そこへアプローチしなければ、症状は慢性化しやすくなります。だからこそ、私たち一人ひとりが「自分の身体をしっかり知る」こと、そして「痛みの本当の原因はどこにあるのか?」という視点を持つことが非常に大切なのです。

今日からできる!首の負担を減らすための簡単セルフケア

根本的な改善には専門家による的確な診断と施術が不可欠ですが、ご自身でできるセルフケアを取り入れることで、症状の緩和や再発予防に繋がることがあります。ここでは、今回のテーマである「身体の回旋機能の低下」や「姿勢の崩れ」に関連する簡単なセルフケアをご紹介します。

1. お尻上げストレッチ(ブリッジ運動)

目的: 股関節の伸展を促し、体幹の安定に関わる殿筋群(お尻の筋肉)を強化します。この運動は姿勢の改善や下肢への伝達性を強化します。

2. 上腕三頭筋(二の腕の後ろ側)ストレッチ

目的: 肩甲骨周りの柔軟性を高め、巻き肩や猫背の改善を助けます。腕や肩のスムーズな動きをサポートし、身体の回旋をスムーズにします。

当院での運動は、その人に合わせた処方箋のような役割を担っています。痛みの原因が分かっていることこそ自信をもって提供し、効果的効率的に状態を改善していくことが出来ます。しかし間違えた運動方法は状態を悪化しかねません。誰から得た情報なのかその精細さがセルフケアには欠かせません。

まとめ

今回は、回旋系スポーツを楽しむ40代以降の方に多い首の痛みについて、その隠れた原因となりうる「身体の回旋機能の低下」「神経の問題」、そして「姿勢の歪み」との関連性について詳しく解説してきました。

「痛む場所だけが悪いわけではない」ということ、そして「根本原因にアプローチしなければ、症状は繰り返しやすい」ということをご理解いただけたでしょうか。

もしあなたが、長引く首の痛みや原因不明の不調に悩まされ、「もう良くならないかもしれない…」と不安を感じているのであれば、どうか諦めないでください。あなたの身体には、必ず自然治癒力が備わっています。その力を最大限に引き出すためには、まず「ご自身の身体の状態を正確に知ること」、そして「痛みの本当の原因は何かを特定すること」が不可欠です。

くまのて接骨院では、独自の分析法と丁寧なカウンセリングを通じて、あなた自身も気づいていない身体全体を分析し、根本原因を徹底的に探り出します。そして、症状の改善はもちろんのこと、再発しない健康な身体づくりを全力でサポートいたします。

「私のこの痛みも、もしかしたら…?」そう感じた方は、ぜひ一度お気軽にご相談ください。充実した日々の第一歩を踏み出しましょう!

院長の写真くまのて接骨院熊谷

『中高とバスケ部でした。』

院長 熊谷 卓眞
柔道整復師

-身体の仕組みと機能(筋・腱・筋膜、神経、自律神経など), 首・肩の痛み・(四十肩、寝違え、神経痛)

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