
「安静第一」が回復を遅らせる?肉離れ治療の新たな視点
一般的な肉離れの対処法に潜む「落とし穴」
多くの情報で推奨されているRICE処置(Rest=安静、Ice=冷却、Compression=圧迫、Elevation=挙上)。急性期の応急処置としては一定の効果がありますが、これだけでは不十分であったり、方法を間違えると逆効果になることもあります。
特に注意が必要なのは以下の点です。
- 安静にしすぎる:
確かに受傷直後は安静が必要ですが、長すぎる安静は血液が癒着し、回復を遅らせる原因になります - 圧迫と挙上:
圧迫や挙上は腫れや内出血を抑える目的で行われますが、過度な圧迫は血行を妨げ、回復を遅らせる可能性もあります。 - 間違ったストレッチ:
肉離れ予防にストレッチは有効ですが、間違った方法で行うと、正常な筋線維まで損傷し、それが癒着することで、肉離れに繋がるケースも少なくありません。 - 押したり揉んだりする:
「早く治したい」一心で、痛む場所を強く押したり揉んだりするのは絶対にやめましょう。傷ついた筋線維をさらに破壊し、内出血や腫れを悪化させ、回復を大幅に遅らせてしまいます。
なぜ「安静にしすぎ」が回復を妨げ、再発を招くのか?
肉離れは、筋肉の内部で微細な損傷や内出血を起こしている状態です。過度な安静や、痛みを感じさせないようにするための強すぎる圧迫は、一見すると楽に感じるかもしれません。しかし、その間に損傷部位では何が起こっているでしょうか? 動かさないことで血流が滞り、内出血した血液などが組織と癒着しやすくなります。この癒着が、筋肉本来のしなやかさ、つまり「弾力性」を奪ってしまうのです。
弾力性を失った筋肉は、その後の動作で再び負担がかかりやすく、再発のリスクを高めてしまいます。「しっかり治ったはずなのに、また同じ場所を痛めてしまった…」という経験はありませんか? それは、この癒着と弾力性の低下が関係しているのかもしれません。
当院が考える『早く治す』ための基本方針:自然治癒力を最大限に引き出す
当院では、肉離れを早く、そして確実に治すためには、ただ安静にするのではなく、体自身が持つ「治ろうとする力(自然治癒力)」を最大限に引き出すことが最も重要だと考えています。そのために、一般的なRICE処置の考え方にとらわれず、独自の視点からアプローチを行っています。
その鍵となるのが
- 「戦略的なアイシング」
- 「適切なストレッチ」
- 「筋肉の弾力性」
早く治すための鍵①:戦略的アイシングで「熱と内出血」をコントロールする
アイシングの目的:炎症抑制と内出血の排出
アイシング(冷却)は、RICE処置にも含まれますが、当院ではその目的を少し深く捉えています。
もちろん、炎症による過剰な熱を抑えることは重要です。しかしそれだけではなく、適切な冷却は血管の収縮と拡張を促し、結果的に血流をコントロールする働きがあります。これにより、損傷部位に溜まった内出血や老廃物を効率よく排出させ、新鮮な血液(酸素や栄養)を呼び込むことを目指します。ただ冷やし続けるのではなく、適切なタイミングと方法で行う「戦略的な」アイシングが重要です。
内出血の排出が早いと予後が良い理由(または特徴)
臨床経験上、アイシングなどによって患部の熱感を早期にコントロールでき、内部の内出血が早く皮膚表面に現れて吸収されていくケースは、その後の回復が非常にスムーズに進む傾向があります。
いつまでも腫れや熱感が引かず、内出血の跡が長く残るような場合は、回復力が少し滞っているサインかもしれません。
早く治すための鍵②:適切なストレッチは「治癒へのアクセル」
なぜ安静よりストレッチ?脳に信号を送る重要性
「肉離れなのにストレッチ?」と驚かれるかもしれません。
もちろん、無理に伸ばせというわけではありません。適切な範囲のストレッチを行うことは、実は治癒を促進する上で非常に重要だと考えています。なぜなら、筋肉を適度に動かし、伸ばすという刺激は、脳に対して「ここに問題があるぞ、早く治してくれ!」という信号を送り続けることになるからです。安静にしすぎると、この信号が途絶え、体は「もう治さなくてもいいのかな?」と勘違いし、治癒プロセスが停滞してしまう可能性があります。
「ストレッチで悪化しないの?」そのメカニズムと考え方(詳細は別記事へ)
多くの方が心配されるのが、「ストレッチでさらに筋肉が切れたり、悪化したりしないか?」ということでしょう。結論から言うと、専門家の指導のもと、適切な方法と強度で行えば、ストレッチが悪化を招くことは基本的にありません。むしろ、前述の通り治癒を促進し、癒着を防ぐために必要です。(なぜ悪化しないのか、その詳しいメカニズムについては、少し専門的になりますので、別の記事で詳しく解説したいと思います。)大切なのは、痛みの感覚に耳を傾けながら、無理のない範囲で「動かす」刺激を与え続けることです。
早く治すための鍵③:『筋肉の弾力性』こそ治癒と予防の最重要ポイント
なぜ筋肉の弾力性が失われると再発しやすいのか?
筋肉は伸び縮みすることで力を発揮し、衝撃を吸収します。しかし、肉離れによる損傷や、その後の癒着によって弾力性が失われると、筋肉は硬く、悪質な筋線維の状態になります。例えるなら、伸びが悪くなったゴムのようなものです。そのような状態で再びスポーツなどで負荷がかかると、衝撃をうまく吸収できず、簡単に再断裂…つまり再発してしまうのです。
弾力性を取り戻す・高めることの重要性
したがって、肉離れの治療においては、痛みが取れることだけがゴールではありません。損傷した筋肉が元のしなやかな弾力性を取り戻すこと、これが根本的な治癒であり、再発予防の鍵となります。
そもそも、弾力性の高い筋肉は肉離れ自体を起こしにくいのです。
当院の独自アプローチ:近赤外線治療で『弾力性』を取り戻す(メディチャーライト等の効果)
当院では、この「筋肉の弾力性」を高めるために、近赤外線や赤色光を用いた光線療法(例:メディチャーライトなど)を積極的に取り入れています。これらの光は、体の深部まで到達し、細胞レベルでエネルギー代謝を高め、硬くなった軟部組織(筋肉や筋膜など)の弾力性を高める効果が期待できます。触診で筋肉のコリや硬さがある部分を確認しながら丁寧に照射すし、再発しにくい体作りを目指します。
ご自宅でできる弾力性維持の工夫(圧痛・動作痛の確認)
光治療を受けられない場合でも、諦める必要はありません。動かした時の痛み(動作痛)の変化を注意深く確認し、その痛みが少し感じる状態でアイシングを掛けてください。そうすることで筋肉の弾力性が少しづつ向上し、動きがよくなっているはずです。
忘れてはいけない『自分自身の回復力(自然治癒力)』との向き合い方
回復スピードは人それぞれ。焦らず自分の状態を知ること
ここまで早く治すための「コツ」をお伝えしてきましたが、大前提として、人の体が回復していくスピードには個人差があります。同じような肉離れでも、回復力(自然治癒力)が高い人は早く良くなりますし、回復力が少し鈍っている場合は時間がかかることもあります。大切なのは、他人と比較せず、焦らず、今の自分の体の状態を正しく知ることです。
施術者の役割は『引き出す』サポート役
私たち施術者の役割は、魔法のように一瞬で治すことではありません。様々な手技や治療機器(光線療法など)を用いて、患者さん一人ひとりが本来持っている自然治癒力を最大限に引き出すためのお手伝いをすることです。主役はあくまで、患者さん自身の体なのです。
まとめ:早期回復の鍵は「間違ったことをしない」と「専門家による適切な処置」
では、ふくらはぎの肉離れをできるだけ早く、そして綺麗に治すためにはどうすれば良いのでしょうか? 重要なのは、「誤った対処をしないこと」と「受傷直後から専門家による適切な処置を受けること」です。
せっかく良い方法を多くやっても、誤った対処がひとつでもあれば回復はマイナスになってしまいます。逆に、正しい方法を一つずつ積み重ねることで、回復は驚くほど早まります。
ふくらはぎの肉離れの早期回復の鍵は以下の点です。
- ✔️正確な状態の把握:
まずは、どの程度の損傷なのか、どこに問題があるのかを正確に把握することが重要です。自己判断せず、専門家に見てもらいましょう。 - 🧊アイシングによる炎症抑制:
受傷直後のアイシングは、炎症を抑え、痛みを軽減するのに有効です。ただし、長時間やりすぎたり、凍傷には注意が必要です。 - 🔑腫れと内出血を早期に引かせる:
腫れや内出血は、損傷部位の回復を妨げます。これらを早期に引かせるための適切な処置が必要です。 - 🚶♂️「安静にしすぎない」適切な管理:
無理のない範囲で少しずつ筋肉を伸ばし始めることが、筋肉の癒着を防ぎ、再発を予防しながら回復を促す鍵となります。
🌳「癒着させない」ための適切なストレッチ:
傷ついた筋線維(出血)が固まって癒着してしまうと、痛みが残ったり再発しやすくなります。これを防ぐために、痛くない範囲で、専門家の指導のもと、ストレッチを行うことが非常に重要です。これが、筋肉の弾力性を回復させるためにも不可欠です。 - ⚠️押したり揉んだりは絶対にしない:
これは繰り返しになりますが、損傷部位への直接的な刺激は厳禁です。 - 👉早期の専門的な施術:
受傷直後から、筋肉や靭帯、関節の専門家である柔道整復師による適切な施術を受けることで、自然治癒力を最大限に引き出し、腫れや内出血を早く改善させ、筋線維の修復を促進し、癒着を防ぐことができます。これにより、一般的な対処法に比べて予後は格段に良くなります。