はじめに:「良かれと思ったケア」が、あなたを痛めているかもしれません
股関節の柔軟性を高めるため、開脚ストレッチに励んでいる方は多いと思います。しかし、そのケアが逆に内転筋の肉離れを引き起こすなど、危険を伴う可能性があることをご存知でしょうか。
もちろん、全ての開脚ストレッチが悪いわけではありません。しかし、もし行うのであれば、
- 骨盤がしっかりと起き上がっていること
- 膝が完全に伸びていること
- 股関節に近い部位が伸びていること
この最低限の条件を守る必要があります。もし、骨盤が丸まっていたり、膝が曲がっていたりするなら、そのストレッチは今すぐやめるべきです。
当院では、様々な不調の原因を探るために股関節の動きを重要視しますが、単純に「股関節が開かないから、開くストレッチをしましょう」という指導は決して行いません。そこには、多くの人が見落としている身体の真実があるからです。
「柔らかすぎる」ことの落とし穴:過度な開脚がもたらす本当のリスク
SNSなどでは、股関節が180度開く美しい開脚ストレッチを見かけることがあるかもしれません。しかし、その見栄えの良さとは裏腹に、過度な柔軟性は「変形性股関節症」や「膝関節炎」といった、深刻な怪我のリスクと隣り合わせです。
そもそも180度の開脚は、正常な股関節の可動域を明らかに超えています。筋肉や関節に常に無理を強いている状態で、実際に、見た目は柔らかくても身体のあちこちに痛みを抱えている方は少なくありません。
本当に大切な股関節の機能は、開脚の角度ではなく**「屈曲」と「内旋」(曲げて内にひねる動き)**です。過度に開脚を追求すると、その代償としてこの重要な屈曲・内旋の動きが困難になり、可動域が低下します。その結果、股関節に炎症が起き、やがては「変形」へと繋がっていくのです。(炎症が変形を招く、と覚えておいてください)

なぜ、あなたの股関節は硬いのか?答えは「股関節」にはありません
少し考えてみてください。あなたの周りにいる「身体が柔らかい人」は、必死に股関節のストレッチをして、その柔軟性を手に入れたのでしょうか?
答えは、おそらく「いいえ」です。柔らかい人は、もともと自然に柔らかいのです。
では、どうすればその「自然な柔らかさ」を手に入れられるのか。それは、解剖学の知識だけではたどり着けない、身体全体の**「連動性」**を理解することから始まります。
例えば、当院の臨床では、
- 股関節の開きが悪い → 大腿四頭筋や肩の動きを改善する
- 股関節の曲がりが悪い → ふくらはぎや腹筋、大胸筋を調整する
といったアプローチで、股関節に直接触れずとも、その動きを劇的に改善させることが多々あります。 足のむくみや、胃腸の不調といった自律神経の乱れでさえ、股関節の動きを悪くさせます。身体のあらゆる機能や生理を理解しているからこそ、股関節を柔らかくするための本当の理屈が見えてくるのです。
プロの真似は、なぜ危険なのか?
「でも、プロ野球選手や力士もやっているじゃないか」そう思うかもしれません。 ここに、最大の落とし穴があります。
彼らのような一流アスリートは、もともと持っている身体的優位性(=自然に柔らかい身体)という**「1」の土台の上**で、さらにパフォーマンスを上げるためのトレーニング(1を10にする)をしています。
しかし、身体が硬い、つまり土台がまだ「0」の人が、いきなり同じことをすれば、怪我をするのは当然です。 あなたの身体に必要なのは、プロの真似ではなく、まずあなた自身の身体を知り、「0から1」を創るための、ごくごく基本的なケアなのです。
まとめ:自分を知ることが、すべての始まり
スポーツは、今日よりも明日、少しでも成長していることを実感するためにある、と私は信じています。自身の身体の価値を損ねてまで、勝利だけを追い求めるべきではありません。
無理なトレーニングや運動も、その本質を理解せずに行えば、身体にとって毒になります。
では、無理なストレッチをせずに、どうすればパフォーマンスを上げられるのか? その具体的な理論と方法については、今後さらに詳しく解説していきます。大切な情報を見逃さないためにも、ぜひこの機会にメルマガにご登録ください。